就農したい人を育てる  – おおにし農園

うちに来た子のほとんどが農業は初めて。始めに教えるのは「鍬の持ち方から」。そういって、顔をほころばせるおおにし農園の大西則和さん。三田市下深田にある同園では、就農を目的とした沢山の研修生を受け入れている。

教職から農業へ

本格的に農業を始めた当初は土が大事と、肥料にこだわり、肥料づくりに手間暇をかけていた。ところがある時、こだわりの肥料でなくても美味しい野菜ができるという事がわかった。「土地と水が影響している」と感じたという。
三田はもともと米所として稲作が中心だった。その中でも美味しいお米ができる地域というのがある言われていた。この辺りが、まさにお米が美味しくできる土地。土と水に恵まれた土地で野菜を作ると美味しくできると話す。さらに、この辺は鉄分が含まれる冷泉が沸く。川の中でポコポコと沸いている場所がたくさんある。「そういったことも野菜のおいしさに影響しているのだろうと思っている」と話した。

恵まれた土地

前職は三田学園で「生物」を教えていた大西さん。田舎なので、もともと田んぼはあり兼業していた。12年前に教員を退職し、息子と2人で野菜作りを始めた。「それがいつの間にかどんどん広がって、今に至ったという感じです」と笑う。継ぐという感覚ではなく、自然と農業に入っていったと話す。
生物に携わっていた頃、世界にはいろんな生き物がいることを知った。野菜も調べていくと、まだまだ知らない野菜がたくさんある事を知り、珍しい野菜を育てる事に興味が広がった。世に広げたい野菜、作って美味しい野菜がいっぱいある。「見たこともない野菜でも、食べると美味しいという事を知ってほしい」と語る。その言葉通り、大西農園では「どうやって食べるの?」と聞きたくなる、たくさんの珍しい野菜を栽培している。

ミニトマトのプチぷよ

引き継いでいきたいこと

お客様に「美味しい」と言ってもらえる野菜作りを目指していると大西さん。平均2年間の研修の中で、どうしたら「美味しい野菜」ができるかは、研修生個人に考えてもらっているという。丹精込めて野菜をつくることはもちろん、野菜を買ってくれる方とのコミュニケーションを大切に考ている同園では、できるだけ採れたてをお渡ししたいと、来園した人が、もぎたてを買って帰る事ができる(要事前予約)。
また、より美味しく食べてもらうために、HPには野菜を使った多くのレシピが掲載されている。「1つの野菜でも、もっと美味しく、もっといろんな食べ方がある事を知ってほしい」と話す。
そんな大西さんの背中を見て学んだ研修生たちは立派に就農。そのほとんどが、「自分の農園を持つ」という夢を叶えている。「美味しい野菜」「めずらしい野菜」作りへの情熱が尽きる事のない大西さん。「農業を広めるため、研修生の受け入れも引き続き行っていきたい」と話した。

 

 

野菜づくりは人づくり – 生鮮野菜清水商店

三田市から車で走ること10分。のどかな風景が流れるこの場所で、農業に魅了された一人の男性がいた。清水商店の清水浩一さん。見た目からしてワイルドで、THE「自由人」39歳で脱サラし、野菜づくりを始めた。まるで、本の一説から出てきたかのような肩書きを持った人物だが、なぜそこまで農業にこだわるのか、農業の魅力とは何か。その男性の実態に迫ることにした。
「今日めっちゃ暑いっすね~」黒々と焼けた肌に、真っ白な歯が印象的。なんと言っても爽やかで、笑顔のよく似合う若い男性。「何でも聞いてくださいね。」農家の人=職人気質で無口。そんな印象をガラっと一変させるような人だ。

清水さんと野菜づくり

生鮮野菜清水商店 清水浩一さん

清水さんがこの場所で農業を始めたのは、今から6年前の39歳。サラリーマンでいう油が乗ってきた時期に農業の世界へ。元々自然が好きで自然の中で働きたい、その想いは常に心にあり、漠然といつかは野菜づくりがしたいと思っていた。実際に始めるにはそう時間はかからなかったという。やると決めたら最後まで。人生一度きり、思ったときに思った事をするというのがモットー。ではなぜ脱サラしてまで野菜づくりがしたかったのか。安定したサラリーマン人生とは真逆の道。その魅力とは何か…

農業の魅力に迫る

「農業って恨むところがないんですよ。人に関わる仕事って妬み嫉みがでてくる。色んな摩擦が出てきて、何日も気持ちを引きずったりもする。それが農業は一日で忘れる事ができるんですよ。敵がないんです。自然のことやからしゃあないなって納得できるしね。それが一番の魅力ですね」
なるほど。人が関わると面倒な事でも、自然相手だと自分で対処できるということ。ここでも清水さんの器の大きさが分かる。

中間世代の役割

「僕らは中間世代やと思ってるんです。若い世代の子と年配の農家、とらえ方やら全く違いますね。コミュニケーションが取られへん。やから間をとって僕が代弁する感じ。上の人の話を聞いてそれを上手いこと下に伝える。まぁ橋渡しみたいな感じの役割をしてます。こんだけ自然好き言うといて、人との関わりも好きなんですよね。」清水さんのような人がいるから、第一次産業が繋がっていくのだと実感した。

「失敗しても大丈夫な環境を作ってあげて、失敗から出てくる問いを感じることが大切。それがあれば精神的にも余裕がでて、下の世代も農業を続けることができると思う。自分もそうだったし、今でも失敗して師匠に聞きに行くこともある。」自分の好きを貫くこと以外にも、下の世代を育てていくという優しさも垣間見れた。これからも自分の好きが、自分の作った作品が、少しでも皆の手元に届いてほしい。そう清水さんは語る。
そんな清水さんが作る作品で、今最もイチオシの商品が「#夢のアスパラガス」。アスパラガスにどんな夢が詰まっているのだろうか…夢を描いて料理するのも、また楽しみの一つかもしれない。
清水さん、まだまだ農業を改革していきそうな気がする。新しい風を吹かし、三田の地場産業を盛り上げていく姿が想像できる。今後の清水商店に期待したい。

生鮮野菜清水商店 「#夢のアスパラガス」